日本の神社には、たくさんの神様が祀られています。
そして、それらの神様のことを学びたいと思った時、『古事記』や『日本書記』は外せません。
それらを読んでみると、子どもの時に、両親や祖父母に聞かせてもらっていた物語が、たくさん出て来ることに驚きます。それだけ、神話は生活の一部として、語り継がれていたものだったのだと思います。
実際、子どもの時に聞いた「昔話」が、実は神話に描かれていた「神さまのおはなし」だったことを、大人になってから知ったという方も少なくないのではないでしょうか。
そして、今の子どもたちは、そんな「神さまのおはなし」を知っているのでしょうか。
そこで、「あん・はな」では今の子どもたちに聞かせたい「神さまのおはなし」をピックアップ。
記念すべき第1回目は、『因幡の白兎』(いなばのしろうさぎ)です。
旅の途中で出会った「白兎」が悲惨な状態に…
出雲の国(今の、島根県)に住む大国主神(おおくにぬしのかみ)は、とても優しい神様です。
大国主神には大勢の兄がいましたが、兄たちは、心優しい大国主神のことを気に入らない様子でした。
ある日、因幡の国に美しい女神がいるという噂を聞いた兄弟たちは、その女神に会うために因幡に向かうことになります。もちろん、大国主神も一緒です。しかし、兄たちは大国主神に荷物を持たせて、自分たちは軽々と先に行ってしまいます。大国主神は、すっかり出遅れてしまうのです。
一足早く因幡の国にある気多の岬に到着した兄たち。
そこで、サメ(一説には、ワニ)に体の皮を剥がれたという白いウサギに出会います。とても困っている様子のウサギを見て、その様子を面白がった兄たちは、「海水を浴びて、風にあたるように」と、ウサギに嘘をつきます。
それを信じたウサギは、海水に飛び込み、風で体を乾かすのですが…海水の塩によって傷の痛みは酷くなり、風で乾いた体は燃えるような熱さのような痛みにもなり、さらに苦しむことになります。
その様子を見た兄たちは、笑いながらウサギを放って行ってしまうのです。
ウサギの悪行が明らかに…どうする?大国主神
痛みに苦しみ、泣いているウサギの前に、すっかり出遅れた大国主神が現れます。
その様子を見て驚いた大国主神は、慌ててウサギに事情を聞きます。
すると、ウサギはサメに皮を剥がれた経緯を話し出すのです。
ウサギは、隠岐の島に住んでいました。
「一度でいいから、国を渡りたい」という思いが芽生えたのですが、ウサギは泳ぐことができません。
そんなウサギの前にサメが現れ、ウサギはサメたちを利用しようと考えたのです!
「サメさんの仲間と、私の仲間、どっちが多いか比べっこしよう!」
サメは、「面白い!やってみよう!」と、ノリノリです。
ウサギは、サメを並ばせて、数を数えるふりをしながら、サメの背中の上をトントンと渡っていきます。
しかし、ここまで簡単にサメを騙し、スムーズに海を渡ることができた自分に嬉しくなってしまったウサギは、調子に乗ってしまいます。なんと、因幡に到着する前に、自分がサメを騙していたことを面白く喋ってしまうのです。
それを聞いたサメは怒り、ウサギの皮を剥いでしまったのでした。
そして、皮を剥がれたウサギの前に大国主神の兄たちが現れ、さらに酷い状態になってしまったのです。
…サメが怒る気持ちも、わかります。はっきり言って、ウサギの自業自得です。
それでも、心優しい大国主神は、ウサギを助けることにしたのです。
まさかのクライマックス!ウサギの正体とは?
大国主神は、ウサギに「体を川の真水で洗うように」と言います。
そして、摘んできた蒲(がま)の花の上にウサギを寝かせました。
すると、皮が剥がれた箇所から毛が生え、ウサギは元の「白兎」に戻ったのです。
ウサギは、大国主神に、とても感謝しました。そして、白兎はこう伝えます。
「きっと、あなたの求婚は、成功するでしょう!
あの兄たちは、女神の心を手に入れることができません!」と。
さて、出遅れていたうえに、ウサギの手当てまでしていた大国主神は、すっかり遅くなってしまいました。
相変わらず荷物を抱え、因幡の国に向かいます。
そこで待っていたのは、美しい女神と評判の八上比売(やかみひめ)。
既に兄たちからの求婚を受けていた八上比売でしたが、大国主神にこう言います。
「荷物を背負っているあなたが、私を自分のものにしてください」
八上比売は、大国主神の求婚を受け、大国主神の妻神となったのでした。
「因幡の白兎」には続きがある!
心優しい大国主神のおかげで、救われた白兎。
その後、美しい八上比売への求婚も成功し、物語はめでたしめでたし…といきたいところですが、実はこの後も、『古事記』では、物語が続きます。
なんと、大国主神に嫉妬した意地悪な兄たちが、大国主神の命を何度も狙うのです。
大国主神は、何度も命を落としますが、その度に母神・刺国若比売(さしくにわかひめ)は救いの手を差しのべます。
そして、高天原(たかまがはら)にいらっしゃる神産巣日神(かみむすびのかみ)に助けを求め、大国主神は何度も蘇えるのですが、しつこい兄たちの攻撃を避けるために大国主神は、紀伊国に逃げることになります。
まだまだ話は続きますが、八上比売との結婚生活をゆっくり楽しんでいる余裕はなかったようですね…。
『因幡の白兎』は、思いやりを持つことの大切さを伝える物語として、または 八上比売との恋愛ラブストーリーとして語られることも多いのですが、実は地方の権力者同士の迫害と闘争を描いた物語でもあるといわれています。
物語をいろいろな角度から見てみることで、その物語の本質を知ることができる。
これも、「神さまのおはなし」の楽しみ方なのかもしれません。