神話に出てくる3つの世界「高天原」「葦原中国」「根の国・黄泉の国」
神社に祀られている神々は、主に『古事記』『日本書記』に登場します。
その中で、神々が住んでいる世界の名前が出てくるのですが、それらは大きく分けて3つの世界に分けられます。
その3つとは、
「高天原」「葦原中国」「根の国・黄泉の国」。
これらを知っておくことで、イメージが広がり、神話はもっと面白くなるはずです。
今回は、そんな神話に出て来る3つの世界を、ご案内したいと思います。
神が住む「高天原」(たかまのはら)
高天原は、簡単に言えば「神様たちが住む世界」です。
最高神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が治める「天上界」と呼ばれる場所で、ここに住む神様たちは、「天つ神」(あまつかみ)と呼ばれます。
神話の中で登場するので有名なのは、やはり「岩戸の段」と呼ばれる箇所。
天照大御神が、天岩戸(あまのいわと)にお隠れになり、世界が暗闇に包まれてしまいます。
そこで、神々が持つ智恵と技術を集結し、天照大御神を岩戸から出して、世界に光が戻ってくるという物語ですが、この岩戸の段の舞台こそ、高天原です。
では、実際に高天原はどこにあるのでしょうか?
その答えは、さまざまな考え方があるようです。
例えば、神様が住む場所であるから、天上もしくは天より高い宇宙を示すと考えられているもの。
これは、多くの学者が提唱している考え方です。
また、そもそも神話とは何かしらの史実が影響しており、地上にあったある場所を高天原と考えていたという説。
それは、国内のみならず海外であったと唱える学者さんもいるようですが、例えば卑弥呼が治めていたという邪馬台国(邪馬台国が実際にあった場所においては、今もなお議論が行われている)と関連付ける人もいれば、朱子学者・新井白石は常陸国(現在の茨城県)にあったと唱えていたそうです。
また、全くのフィクションであるという説もあり、まだまだ謎は深まるばかりです。
人間が神として住む「葦原中国」(あしはらのなかつくに)
葦原中国は、簡単に言ってしまえば「人間が住む世界」です。
「地上界」と呼ばれ、最初は、大国主神(おおくにぬしのかみ)が治めていました。
「大国主神は、神様じゃないの?」と言われそうですが、大国主神は「国つ神」(くにつかみ)と呼ばれる神様です。
大国主神が治めた葦原中国はとても美しい国で、それを見た天照大御神は、葦原中国を天つ神に譲るようにと大国主神への交渉をすることにします。そこで、高天原から続々と使者を派遣するのですが、その死者たちはことごとく失敗していくのです。
最終的には、大国主神は天照大御神の孫である邇邇芸命(ににぎのみこと)に国を譲ることにします。
邇邇芸命が 葦原中国 に降りてきた「天孫降臨」、そして大国主神が国を譲った「国譲り」は、神話の中でも人気のあるストーリーであり、その舞台となったのが 葦原中国 です。
国つ神とは、この天孫降臨以前から葦原中国に住み、その土地や国土を守護していた神様、その子孫を指します。
このように神話の中で、今私たちが暮らしている地上界で、天つ神(神様)と国つ神(人間)が一緒に暮らすようになった物語が、ちゃんと描かれています。
日本の人々が、神様を身近に感じて暮らすという風習が生まれたのも、とても自然なことだったのだと感じます。
死者が住む「根の国」「黄泉の国」
最後は、根の国・黄泉の国です。この2つの国は、死者が住む世界として描かれます。
この2つは、基本的には違う国のことを示していますが、同一とされることもあります。
黄泉の国の入口である黄泉比良坂(よもつひらさか)は、根の国の入口でもあるという記述が『古事記』にあります。
神話の世界では、須佐之男命(すさのおのみこと)が後半生を過ごす場所として描かれる根の国は、兄弟たちから命を狙われた大国主神が逃げてくる場所としても描かれています。
また、黄泉の国は、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)が、亡くなった妻神である伊邪那美神(いざなみのかみ)に会いたい一心で訪れる場所としても描かれています。
『古事記』で、須佐之男命は根の国を「妣國」(ははのくに)と呼んでいることも興味深く、須佐之男命の母を伊邪那美神であると考えると、やはり根の国と黄泉の国は同じであると考えたほうが自然のようにも思うのですが、この2つは別の世界だという考えも、今もまだ根強くあるようです。
また、神話の中では、黄泉の国を訪れた伊邪那岐神は、伊邪那美神の変わり果てた姿を見て逃げ出します。
その様子を見た伊邪那美神は怒り、伊邪那岐神を追いかけてくるのですが、最後は黄泉の国の入口である黄泉比良坂に千引の岩(千人力でしか動かないような大きな岩)を置き、入口を塞いでしまいます。
根の国は名前のとおり地下にあり、黄泉の国も地下にあるように思うのですが、黄泉比良坂という名前のとおり、入口は「坂」になっていた、またはあの世とこの世の「境」であったなど、いろいろな考え方があるようです。
島根県松江市には、黄泉比良坂であったという伝承が残る場所が残っています。
日本の神社で体感する神話の世界
今回は、神話に登場する3つの世界を見ていきました。
伝承地として残っている場所もありますが、日本各地の神社では、それらの神話にちなんだ場所が人に手によって造られているものもあります。
例えば、高天原にある「天岩戸」を模して造った祠をはじめ、天孫降臨や国譲りなどに関連する場所が各地にあるのは、さまざまな伝承があり、さらに神話の神々を信仰する人たちの手によって、人間が身近に神様を感じて暮らせるような仕掛けとして環境を整えていったのではないかと、「あん・はな」は考えております。
神話の舞台となった3つの世界を知っておくことで、神社に参拝するだけで、どんどん神話の世界に入り込んでいけるような気分を味わっていただけたらと思います。